コロナ禍で当サイト「日本でみつけた釜山」を開始して、取材のために新大久保のコリアンタウンへ何度か足を運びました。いつもは自宅から行くのに便利な大久保駅を使っていますが、たまたま、新大久保駅を利用したときに、ふと、ずいぶん前に新大久保駅で起きた転落事故を思い出しました。

◇ JR山手線新大久保駅での乗客転落事故 ◇
2001年1月26日の19時15分に発生。酔った男性が線路に転落し、カメラマンの関根史郎さん(当時47歳)、韓国人留学生の李秀賢さん(当時26歳)が助けようと線路に飛び降りたところ、進入してきた電車にはねられ、3人とも死亡。

帰宅してネットで調べたところ、あの事故が起きてから今年でちょうど20年。そういえば、この冬、20年目の追悼の様子が日本や韓国のテレビやネットのニュースで取り上げられていました。
二人の勇気ある行動は、両国の人々に深い悲しみをもたらし、同時に大きな感動を与えました。そして、事故をきっかけに、新大久保駅のホーム下には避難場所が設置され、ホームドアも取り付けられました。駅構内には慰霊碑もあります。
また、李秀賢さんのご両親は、多くの人たちからのお見舞金を同じ語学留学生のために役立てたいと奨学金を提案、これが発端となり、アジアからの語学留学生を経済支援する「LSHアジア奨学会」が設立されました。
この悲しい出来事と彼らの勇気は、映画や書籍でも伝えられています。また、韓国外交部では、動画『We Still Remember You / 당신을 기억합니다│아름다운 청년 이수현 20주기 』(日本語字幕あり。約10分)をYouTubeで配信しています。当時の状況や李秀賢さんのことがわかりやすくまとめられているので、ぜひ、ごらんください。▶︎こちらをクリック

☆李秀賢さん(写真提供/LSHアジア奨学会)

実は韓国人留学生の李秀賢さんは、釜山出身です。
私自身、この事故があまりにも痛ましく、目を逸らしていたため、釜山の友人と李秀賢さんについて、話したことがありません。日本において、カメラマンの関根史郎さんについても同様です。
今回、釜山の友人たちに李秀賢さんについて、電話やカカオトークで聞いてみました。
「本当に立派な方で、残念な事故でした。私は少しだけですが、彼の行動を理解できます。韓国の男性は軍隊に行くので、心が強く、社会の役に立とうという面があります。とくに釜山の人は情に厚いため、そのような部分が強いです。私も街で老人や女性が悪い人に絡まれていたら、必ず止めに入ります。それは、ほかの韓国人男性も同じだと思います。ただ、李さんのように瞬時にホームへ飛び込めるかは、わかりませんが…」と話す友人は、李秀賢さんのお父様と仕事で何度も会ったことがあるそうです。そして、「お父様は普通よりも、穏やかな優しさがある印象でした。そのため、あの方の息子さんと知って、ああ、と納得した部分もあります」と付け加えました。
30代の女性からは「ああ!モモイサン、必ず、彼の映画〝あなたを忘れない〟を観てください」と、短いながらも想いが詰まった返信が届きました。
李秀賢三さんと同世代(40代)の男性は「ただただ、涙。言葉にできません」と、ひと言。
「アイゴー。もちろん、知っていますよ。私たちの誇りです。釜山にも李秀賢さんのモニュメントがあります。一度、見に来てください」、「昔のことなので、いつもは忘れられていますが、とても、勇敢で正義感の強い人として感動しました」と、50代男性たちからはこのような返答がありました。
釜山の人たちから、悲しみと誇りが共存する複雑な想いが、じわりと伝わってきました。
困っているときには、自身のことは放ってでも全力で助けてくれる釜山の人たち。私自身、その優しさと情、頼もしさを知っているだけに、話を聞いていて、言葉に表せない想いが込みあげてきます。
だれもが異口同音に「たくさん時間が経っているのに、李秀賢さんに関心を持ってくれてありがとう」と私に言ったのが、とても印象的でした。

☆釜山オリニ大公園にある李秀賢さんの追悼碑(友人が送ってくれました)

今回、この事故について、ほんの少しふれただけですが、釜山人の李秀賢さんが日本と韓国の間に架けてくれた「かけはし」を見た気がします。とても頑丈なかけはしの一部を…。私たちにできるのは、この事故について、いろいろな人と話していくことだと感じました。
釜山を愛する日本人として、その勇敢な行動に、心から感謝いたします。

李秀賢さん 関根史郎さんのご冥福を心よりお祈りいたします

2021年☆秋夕の日に 桃井のりこ

◇ 李秀賢 Lee Soo Hyun ◇

1974年7月13日、韓国蔚山市生まれ。その後、釜山市で高校までを過ごし、高麗大学校へ進学(在学中に軍隊入隊)、卒業後、来日し、2000年1月に赤門会日本語学校に入学。2001年1月転落事故にて他界。
母親の辛潤賛さんは現在も釜山在住(父親の李盛大さんは2019年に他界)。

◇映画
「あなたを忘れない」(2006年、日韓合作、配給ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
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◇書籍
「息子よ」(2021年、辛潤賛著、潮出版)
「李秀賢さんあなたの勇気を忘れない」(2002年、佐桑徹著、日新報道)
「勇気の一瞬」(2001年、夫址栄 著・原著 小学館文庫編集部著、小学館)
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※李秀賢さんに関連するものを一部、掲載しました